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認知症の予防

ぼけ予防10カ条 [(財)ぼけ予防協会より]

  1. 塩分と動物性脂肪を控えたバランスのよい食事を
  2. 適度に運動を行い足腰を丈夫に
  3. 深酒とタバコはやめて規則正しい生活を
  4. 生活習慣病(高血圧、肥満など)の予防・早期発見・治療を
  5. 転倒に気をつけよう 頭の打撲はぼけ招く
  6. 興味と好奇心をもつように
  7. 考えをまとめて表現する習慣を
  8. こまやかな気配りをしたよい付き合いを
  9. いつも若々しくおしゃれ心を忘れずに
  10. くよくよしないで明るい気分で生活を

第1条 塩分と動物性脂肪を控えたバランスのよい食事を

通常10グラム以下の食塩摂取が良いといわれています。高血圧の人は6グラムを大まかな目安として、また、たんぱく尿が認められる人は6グラム以下にしましょう。日常摂(と)る食事中に含まれている食塩はだいたい6グラムです。したがって、みそ汁(1杯中に2グラム)をうす味にして、しょうゆ量(通常15グラム中2.7グラム)、味付けによる食塩の量(通常3グラム)を半分以下にすれば、ほぼ10グラム前後となります。日本人の場合、1日の食塩の摂る量の差はみそ汁の量によるといわれています。うす味にして、具の多いみそ汁にしましょう。その他、塩分の多い焼き魚、煮物、漬け物、佃煮などの食べ過ぎに気をつけましょう。

食事中のコレステロールはできるだけ少なくし、脂肪としては1日20~30グラムまでに制限し、動物性脂肪を減らし、リノール酸を多く含む植物性脂肪を多く摂ることを心がけましょう。例えば、バターの代わりにマーガリンにする。また、糖質の多い食事を摂ることにより、脂肪中の中性脂肪が増加してきます。したがって、食事療法も脂肪のみならず、糖質の制限も併せて必要です。さらに、1日の摂取総カロリーの増加は肥満の原因にもなります。総カロリーは日常の仕事内容により異なりますが、通常は体重1キログラムあたり25~30キロカロリーとして、1500~1800キロカロリーが一応の目安となります。高齢者も老化にうち勝つ活動力を維持するためには、良質のたんぱく質は多く摂るべきです。もちろん食物繊維、ビタミン、ミネラルの摂取にも心掛けなくてはいけません。そのためには野菜、海藻を摂りましょう。いずれにしても食塩、動物性脂肪は少なくして、バランスのとれた食事をしましょう。

第2条 適度に運動を行い足腰を丈夫に

歩くには、脳のいろいろな場所の機能を使いますので、歩くことによって脳のいろいろな領域が刺激されて、脳の代謝と循環が活発になります。

日常生活動作の障害と知的機能の低下との間には密接な関係がみられます。歩行が困難になると知的機能が低下し、逆に知的機能が低下すると運動機能が低下するという悪循環がみられるのです。寝たきりとぼけは、ヒトのもっともヒトらしい機能を奪うとともに、お互いに密接な関連を持っているのです。このために年をとっても歩くことに努め、寝たきりにならないように気をつけることが、ぼけ予防のために重要です。正しい姿勢で、転倒しないようにあせらずに歩く、できれば1日1万歩を目標としたいものです。中年までは少し速足に歩くのがよい運動になるとされていますが、老年者では急がずに自分のペースで無理せずに歩くのがよいでしょう。

歩くこととともに、適度な全身運動も大切です。運動は筋肉や頭に適度な刺激を与えてくれるのみならず、骨を丈夫にし、血管の動脈硬化を予防する効果もあります。

また、歩行で足腰を丈夫にするとともに、手をよく使うことも大切です。ヒトの手は、複雑な巧緻(こうち)運動をすることができます。この機能を衰えさせないようによく使うことは、脳の機能を活発にするためにも重要です。料理を作る、日記をつける、楽器を奏でる、絵を描くなどは、手を使うとともに頭を多面的に使うことになりますので、ぼけ予防のためにいっそう効果的です。

第3条 深酒とタバコはやめて規則正しい生活を

生れて以来500キログラムのアルコールを飲んだ場合、ウェルニッケ脳症や肝障害による脳機能障害を起こし、ぼけと呼ばれる状態(アルコール性認知症)になることが多いのです。その場合、ビタミンやたんぱく質を食事から十分摂取していない人がぼけやすいことはよく知られています。

それほどの量でなくても日本酒1日3合(ビール大ビン2・5本)以上の人では3合以下の人に比べて有意に脳血管性認知症になりやすいといわれています。また、アルツハイマー病の頻度と深酒の有意な関係は認められていないのですが、3合以上の飲酒歴のある人では、アルツハイマー病になりやすい傾向があります。

喫煙は脳血管性認知症の危険因子とされていますが、その程度は深酒より低いのです。喫煙は心筋梗塞(こうそく)の危険因子とされていますが、脳梗塞には心筋梗塞ほど強い関係はありません。

アルツハイマー病に対しては、ヨーロッパでの研究では喫煙者のほうが非喫煙者よりアルツハイマー病になる危険が少ないとしています。

酒やタバコによるぼけは、一朝一夕に起こるものではないのです。したがって、深酒やタバコをやめて規則正しい生活を送らなければならないのは、老齢になる前の人たちです。老齢になって動脈硬化や脳委縮が起こってしまった人は、むしろ「くよくよしないで明るい生活」を送るのがよいのではないかと思います。ただし、深酒は脱水や転倒を起こす機会を増して、直接脳梗塞や硬膜下血腫(けっしゅ)の引き金になるので、老齢者でも避けたほうがよいのです。

第4条 生活習慣病の予防・早期発見・治療を

動脈硬化は、脳、心臓、その他を問わず、生活の習慣(高血圧、高コレステロール血症、肥満など)に基づく生活習慣病といえるものです。したがって生活上のちょっとした心掛けをするか、しないかにより後に大きな影響がもたらされるものです。このようなことから若い時から、よい習慣をつけておくことが望まれます。

脳の動脈硬化には、最大血圧、最小血圧とも大きい影響を与えますが最大血圧が高いことより、最小血圧が高いことがより大きい影響を与えます。

動脈硬化はいずれの臓器においても若い時から徐々に出現し始めており、若い時からこれの進展を抑えることが望まれます。そのためには早く見つけることが大切です。現在、全国の自治体や各種職場などで定期検診、成人病検診、老齢者検診などが行われております。まずこれをきちんと受け、病気を早く見つけることです。そして早く手を打てばそれだけ能率がよいことになります。

肥満は高血圧と並び生活習慣病の代表的なものです。肥満は体質もありますが、摂生はこれを乗り越えて望ましい状態へ導いてくれます。まず標準体重を割り出しこれに近づくように努力します。カロリーの摂り過ぎのみではなく、運動不足も関係しますので、運動を行うことです。

第5条 転倒に気をつけよう 頭の打撲はぼけ招く

アルツハイマー病の危険因子として、内外の疫学的調査で共通し、第一番に挙げられるのは頭部外傷の既往です。頭部外傷といっても、脳震盪(しんとう)のように脳の組織にとくに損傷を与えないもの、また脳挫傷といい脳組織に損傷を与えるものもあります。また、臨床的には意識消失のあった場合、なかった場合など、その重症度にはいろいろ差があります。

もう一つは"拳闘家痴呆(認知症)"という言葉です。反復して頭部に外傷を受けたために拳闘家に出現する痴呆(認知症)のことです。つまり頭部外傷と痴呆(認知症)の関連をズバリ示す病名です。

アルツハイマー病の脳の変化として、老人斑およびアルツハイマー原線維変化というものが出現し、これが診断の基準となっています。拳闘家特にノックアウトが多かった例では、年が若いにもかかわらず、これらアルツハイマー病と同じ変化が出現することが観察されています。

転倒を避け得る方法はありあせんが、ふだんから運動をして、身軽に体を動かせるようにしておくことが望まれます。つまり、転倒に際し、できるだけ頭部を打たないように身をかわすなど、機敏に反応できるように、ふだんから鍛えておくことが大切です。

また、家庭内では段差を少なくし、すべりやすい所にはすべりにくいものを敷くなどの工夫をする、薄暗い所でつまずかないように適切な照明をつけるなどが望まれます。また、必要に応じて早めに杖(つえ)を使うこともよいでことです。

「老人斑」と「アルツハイマー原線維変化」

アルツハイマー型痴呆(認知症)になった人の脳には、普通の人にはかなり少ない二つの組織学的変化が出現する。一つは老人斑という脳のシミ、もう一つは神経細胞の中にできる「とぐろ状」(アルツハイマー原線維変化)のものが見られる。これが代表的な変化。これらが脳の組織を少しずつ壊し、死滅させると考えられている。老人斑はベータ、とぐろ線維はタウというたんぱくがそれぞれの主成分で、なぜ、こんなたんぱくが作られて脳いたまるのか、また人によってたまり方が違うのか、いまのところ解明されていない。

第6条 興味と好奇心をもつように

記憶の前段階には、情報の登録がまず行われます。この際に注意の集中と持続が必要になります。注意が散漫になっていると、新しいことを見聞しても、いわば上の空という状態で、情報が神経細胞に正確に入ってこないことになります。そして、情報の登録が正しくなされなければ判断も適切に行われませんので、ぼけの発症につながることになります。

興味というのは、楽しい、おもしろいと思うことが背景にあります。また好奇心は未知のものを知りたい、あるいは探りたいという意欲があります。そして、興味も好奇心も前向きの積極的な注意の持続を必要とします。したがって、自分のライフスタイルに興味と好奇心をもっていることはぼけの防止につながるといってよいのです。

私たちの心の体験として、没頭体験と見通し体験があります。没頭体験とは、一つのことに熱中していく体験で、新しい技術を習得するときなどに経験します。見通し体験とは、自分の現在の作業や行為がどのような結果を生むのかを推測するもので、これによって私たちは自分を客観視して、必要ならば軌道の修正を行います。若年期には没頭体験がより多く、高齢期には少なくなります。しかし、見通し体験ばかりが多くなって没頭体験がなくなるのは考えものです。没頭体験には、何といっても興味と好奇心が必要な条件になります。

趣味やボランティア活動、あるいは社会参加は脳の活性化につながり、ぼけの予防に大切な役割を果たすことになるでしょう。

第7条 考えをまとめて表現する習慣を

少しでも脳の衰えを防ぐためには、積極的に頭を使うことが必要です。しかし、その場合ただ漫然と頭を使うのでは、あまり脳への刺激とはならず、活性化をもたらしません。

たとえば、テレビのドラマや映画を見ても刺激を受けることになりますが、ただ筋を追うだけではあまり頭を使うことにはなりません。その内容や感想、批評を自分で考え、まとめて表現することが、あれこれと頭を使うことになり、脳の活性化に役立つことになります。書物を読んで考えをまとめることは、さらによいことです。

仕事を離れ、趣味として短歌や俳句をしているお年寄りは、自分で見たこと、感じたことを適切な短い言葉でまとめて表現していますが、上手に頭を使っていることになります。また、将棋や碁も頭を使うことでは脳の活性化に役立ちます。

ぼけの予防には、頭を使い、脳の神経細胞を刺激し活性を与えておくことであり、それには、日ごろから何事も考え、それをまとめて表現する習慣を身につけておくことが大切です。例えば、毎日日記を書く、それも1日の出来事と感想をまとめて表現する、親戚の人や親しい友人に自分の近況を手紙に書いて出したり、読書のあとには感想を書くことは誰にでもできるぼけ予防法の一つです。

第8条 こまやかな気配りをしたよい付き合いを

相手の心にそいこまかい点までやさしい心づかいをして(理解と受容)、情緒的なゆるやかな信頼と平和な人間関係(なじみの心の結び付き)をもつことは、安心・安住の生き方にもっとも必要なものです。そうでなく、自分本位で一方的、頑固で偏屈な態度での人への対応は、上下的な力関係のきびしい対人関係となり、対立的な支配・服従のような中で、極端化すると独善や孤独(閉じこもり)となり、不安・不満・不信が多く、柔らかな人間関係を失いやすくなります。これによる心の困惑・混乱は、生き生きとした自主的な生き方を失わせ、知的な人柄や活動の減弱、まとまりを欠き(解体)、認知症を促進したりします。

生きる頼りのよりどころ(生きがい)、特にその人との付き合い(コミュニケーション)は、好ましい人間性をはぐくみ、自由に知的能力を発揮できてぼけに対抗する健全な精神生活が維持できます。よく言われるように、「自分のまわりに、いつもよく話せる人が20人以上いるか」ということは、自らに振り返ってみる必要があります。

第9条 いつも若々しくおしゃれ心を忘れずに

気持ちが老け込むと、何をするのもおっくうになりがちです。おっくうになると、外出するのも面倒になり、つい、家に閉じこもって、ぐちばかり言っている、ということになりかねません。生き生きした感じがなくなります。これでは、若い人たちも敬遠して近寄ってきません。

心をいつも若々しく保つためには、いつでも考えを柔軟にもつことです。何かにこだわってくよくよ悩むことは、ほどほどにしておきましょう。そして、ここはひとつ、気分を一新して、思いきって、若い人たちと一緒に、何か新しいことに取り組んでみましょう。

どんなささいなことでも結構です。若い人たちも、あなたの人生経験がいかに貴重なものであるかわかれば、あなたをみる目も変わってくるでしょう。生き生きした態度や表情は、あなたをさらい魅力的なものにします。いつも輝いていましょう。身だしなみにも気をつけて、ちょっとしたおしゃれ心も必要です。ユーモアの心も忘れずに。楽しいときには、遠慮することはありません。鼻歌のひとつも歌ってみましょう。ぼけはこのような心に、もっとも近づきにくいものですから。

第10条 くよくよしないで明るい気分で生活を

人との付き合いで起こるささいなトラブルや気持ちの行き違い。毎日の生活で起こる出来事などにとらわれて、いつまでもくよくよと考え込まないこと。ストレスをためこまずに現実的にものごとを処理していく心構えが大切です。
気分の落ち込むうつ病は、感情の病気です。ぼけとはまったく違った心の病ですが、年をとってからのうつ病は、気力の低下、注意力の衰えのために頭の回転が遅くなったり、もの忘れがひどくなるので、一見して認知症の症状になることがあります。これは仮性痴呆(認知症)といって、真の痴呆(認知症)ではありません。うつ病が治れば、また正常に戻ります。

しかし、何度もうつ病をくり返していると、高齢になるほど脳の神経細胞は障害をうけやすいので、やがて本物の痴呆(認知症)になってしまう可能性があります。高齢者では親近者との死別や定年による退職、身体の健康を失うなど、喪失体験が続いて起こることが多く、これらを契機にしてうつ病や気分の落ち込みを起こしやすいといわれています。うつ病は身体の免疫機能を低下させ、気力の低下や食欲の低下を伴うので、体力も消耗して寝たきり状態になることがあります。寝たきり状態はぼけに通ずる近道です。不幸にしてうつ病になったら、早期に治療をすることです。何よりも大切なことは、ふだんから明るい気持ちで過ごすことに努めて、心の健康を高めることは、ぼけの予防として大切なことです。

(1997年10月制定)