2005年 介護保険改正点
介護保険制度がスタートして、5年が経過しました。当初は、制度が浸透するかどうか疑問の声もありましたが、実際は利用者数は300万人を超え、スタート時から倍以上の伸びを見せています。
また、利用の伸びとともに、想定されていなかった課題も浮かび上がっています。そこで、「制度自体を5年ごとに見直す」というスタート当初の予定通り、介護保険法を見直す作業が進められました。改正法案が可決成立すれば06年4月から新たな制度がスタートします。
では、具体的にどんな点が変わるのでしょうか。利用する人にとって、大きく影響を受けると思われる点を取り上げてみます。 「介護予防」に重きが置かれる
介護保険でサービスを受けるには、要介護認定を受け、要支援もしくは要介護1〜5の認定をもらうことが必要ですが、今度の改正案では、認定区分のうち、要支援と要介護1の一部が要支援1・要支援2(仮称)になります。従来の6区分から要支援1・2と要介護1〜5という7区分になるわけです。
改正点は、新たに設けられた要支援1・2ですが、この区分に認定された人には「新予防給付」という、今までとは違ったサービス給付がなされます。例えば、「訪問介護(家にホームヘルパーを派遣してもらって日常生活上の介護を受ける)サービス」を受ける場合、要支援1・2と認定された人には従来の「訪問介護サービス」の給付はされず、代わって「介護予防訪問介護」というサービスが給付されます。
改正点は、今までのサービス内容を、「介護予防」という視点で見直すことです。訪問介護の中の家事援助や生活援助を例にあげるなら、「利用者の安全確認をしつつ、一緒に手助けしながら調理をする」、「洗濯物を一緒にたたんだりすることで自立支援をうながす」(厚生労働省資料)となります。自分でできることはできるだけ自分でしてもらい、ホームヘルパーはその手助けをするということです。
他にも、要介護状態にならないようにするため、身体の機能を維持・向上させるという点も改正されます。器具などを用いた筋力向上や、転倒防止のためのトレーニング、身体機能の衰えを防ぐ効果があると言われる口腔ケア、高齢者の栄養状態を改善する指導など、様々なメニューが想定されています。これらの改善が、訪問介護だけでなく、デイサービスや訪問看護、ショートステイなどにも適用されることで、11種類の「介護予防サービス」が揃う予定になっています。
ケアマネジメントも介護予防の視点で
在宅で介護保険サービスを受ける際には、ケアプランの作成が必要です。通常、ケアプラン作成は居宅介護支援事業所のケアマネジャーが行っています。制度の改正後も、要介護1〜5の認定を受ければ、この仕組みは変わりません。
しかし、新たに設けられた要支援1・2と認定された場合は「どのような介護予防サービスをどの程度使えばいいのか」という「介護予防マネジメント」については、市町村または市町村から委託を受けた「地域包括支援センター」という機関が行うことになります。実際に手がける人も、ケアマネジャーではなく主に保健師が担当することになります。(ただし、プランの原案を作成するなど、一部の業務については民間のケアマネジャーに委託されるケースもあるようです)
大きく改正されたのは、介護予防のプランを作成してサービスを手配するだけでなく、「本当にそのサービスを使うことで介護予防の効果が達成されたのか」という評価まで行うということです。介護予防という一般の利用者にとっては聞き慣れないサービスを浸透させるうえでは、目に見える効果を評価するのが大きなカギとなるかも知れません。
「地域包括支援センター」というのは、市町村や地域の医療法人・社会福祉法人などが運営する新しい機関で、その役割は要支援・要介護認定を受けた人へのサービスだけではありません。介護予防についていえば、介護保険が適用されない人に対しても、その人が要支援・要介護にならないように、転倒予防教室や栄養指導などの「介護予防サービス」を提供します。これらの「介護予防サービス」は、市町村ごとに計画される「地域支援事業」として、主に介護保険料によってまかなわれます。
介護サービスを受けるまでの流れ
実際に介護保険サービスを利用するまでの流れをまとめてみましょう。
Aさんという人が「介護保険でサービスを利用したい」とします。サービスを利用するのに必要なのは、市町村窓口に要介護認定を申請することです。申請の方法は基本的に変わりませんが、本人や家族が市町村窓口まで行けない場合の「申請を代行してくれる機関」が若干変わります。具体的には、地域包括支援センターが代行申請の窓口に加わったこと、居宅介護支援事業所や介護保険施設による代行申請については、省令によって制限される可能性が出てきたことです。
申請をすると、Aさんのもとに認定調査員が派遣されます。今まで認定調査は、居宅介護支援事業所や介護保険施設のケアマネジャーに委託されることが多かったのですが、今後は認定調査はすべて市町村が、直接かかわることになっていきそうです。
次に認定調査の結果をもとに市町村で介護認定審査会が開かれます。今までは「その人の要介護度ランクを審査する」だけでしたが、改正案では「その人の身体状況が維持または改善する可能性」も審査されます。要介護度が軽い人のうち、維持・改善の可能性がある人は「要支援1・2」の認定がされるわけです。
仮に、Aさんの身体状況が「維持・改善の可能性あり」と判定された場合でも、(1)病気やケガをしたばかりで容態がまだ安定しない、(2)重い認知症(痴呆症)がある、といった状態では今まで通り要介護1〜5の判定がなされます。現行通り、ケアマネジャーにケアプラン作成をお願いすればいいわけです。
もし、Aさんが要支援1または2と判定された場合はどうでしょうか。この場合は、市町村もしくは地域包括支援センターなどに「介護予防プラン」を作成してもらうことになります。受けられるサービスは11種類の介護予防サービスになります。(新しい介護保険制度が施行される前に要介護認定を受けている場合は、その有効期間までサービスが継続されます)
またAさんが「自立」と判定された場合はどうでしょう。この場合、原則的には介護保険によるサービス給付は行われません。ただし、市町村が「このまま何のサービスも受けなければ要支援・要介護になるおそれがある」と判定した場合は、Aさんは地域支援事業による介護予防サービスを受けることができます。この場合も、そのマネジメントは地域包括支援センターが主に行います。
施設の入居費用・食費が自己負担に
今回改正される介護保険制度は、06年4月から施行されますが、05年10月から適用される項目があります。それが、施設サービスにおける居住費用および食費を介護保険給付から外す、つまり、すべて利用者の自己負担にするという点です。
そもそも、この改正点は「在宅でサービスを受けている人は家賃も食費もすべて自分で負担しているのに、施設に入っている人だけ保険から給付されるのは不公平だ」という考えから出てきました。すでに、個室ユニットケアを取り入れている新型の特別養護老人ホームでは居住費用が徴収され、老人保健施設においても、個室や2人部屋に入居した人は差額ベッド代にあたる金額を自己負担とするケースが見られます。この仕組みを介護保険が適用されるすべての施設に広げるわけです。
現在、介護保険が適用されている介護福祉施設(特別養護老人ホーム)、老人保健施設、介護療養型医療施設の3施設については、そこで受ける介護サービス費用のほか、家賃にあたる居住費用、および食費の一部が保険から支払われています。例えば、四人部屋の特別養護老人ホームに入居している場合、月あたりの利用者負担額は約3万円。これに食材費(月あたり約2万6000円)を加えた金額が約5万6000円。これだけ支払えば、介護も居住もすべてまかなわれるわけです。
これに対し、今度の制度改正では従来支払っていた自己負担に、居住費用と食事の調理コストも上乗せされます。具体的にどの程度上乗せされるかについては省令で水準が示されますが、試算によれば先にあげた特別養護老人ホームの四人部屋で平均3万円程度になりそうです。つまり、月あたりの利用者負担額はおおよそ8万6000〜7000円になると見込まれています。(なお、糖尿病食など特別な栄養管理が必要な場合、その管理費は従来通り保険から給付されます)この上乗せ分は、ショートステイで利用した場合も同様に負担しなければなりません。
問題は、「そんなに支払うお金がない」という低所得者についてです。改正法案では、「年金以外に収入がなく、その年収が266万円以下の人」を「特定入所者」としました。そして、これらの人を年収によってさらに3段階に分けながら、それぞれに利用者負担の限度額を定めています。つまり、限度額を超えた部分については、(厚生労働省が定める基準額を上限として)利用者の代わりに介護保険から給付がなされるというわけです。
また、介護保険が施行される前、つまり措置制度時代から特別養護老人ホームに入所されている人に対しては、5年間だけ自己負担が介護保険施行前の金額を上回らないようにする措置も講じられています。これは、措置制度時代の入所者は所得水準が低いという点を考慮したものです。
とはいえ、ほとんどの施設利用者にとって、多少なりとも出費増は免れません。このことを国や自治体がどのように説明するのかが、混乱を防ぐカギとなります。「利用者への説明は各施設に任せる」というスタンスでは、現場が受ける風当たりだけが強くなり、大きな混乱を招くことになりかねません。
地域密着型サービスの登場
利用者にとってさらに大きな改革は、介護予防以外に新たなサービス枠が登場する点です。これは「地域密着型サービス」といわれるもので、以下の6種類があげられています。
- 小規模多機能型居宅介護
- 認知症(痴呆症)高齢者グループホーム
- 認知症(痴呆症)高齢者専用デイサービス
- 夜間対応型訪問介護
- 小規模(定員30人未満の)介護老人福祉施設
- 小規模(定員30人未満の)介護専用型特定施設
「地域密着型」といわれるゆえんは、利用者が住みなれた地域を離れずに利用できるよう、「中学校区に1つ」などという具合に市町村が必要な整備量を定め、市町村の権限で事業者を指定するサービスだからです。
例えば、「在宅での介護が難しく、本人を施設に入れるしかない」というケースがあったとします。従来の大規模施設は人里離れた場所に建っているものも目立ち、いったんそこに入所すればご近所付き合いが途切れるだけでなく、家族との交流も疎遠になりがちです。デイサービスなどでも周りが見知らぬ人ばかりという中では、本人の感じる疎外感ばかりが大きくなってしまいます。
そこで、「ちょっとご近所に行く」という感覚で利用できるサービスにより、「人との絆を失わない」介護を実現しようとしたものが、この地域密着型サービスです。例えば、同じ施設であっても(5)、(6)のような小規模なものであれば、街中に建てることが容易で、住み慣れた地域の中で利用しやすくなります。
この6種類のサービスのうち、もっとも注目したいのが(1)の「小規模多機能型居宅介護」でしょう。これは、通い(デイサービス)を中心としながら、必要とあれば通いの時間を長くしたり(延長デイ)、随時利用者宅を訪問したり(ホームヘルプサービス)、ときにはお泊り(ショートステイ)もできるようにした、まさに「利用者のニーズに応じて24時間365日の安心を確保する」サービス拠点です。
在宅介護というのは、「住み慣れた家や地域で暮らし続ける」ことを実現する一方で、予期せぬ事態や不安に家族介護者が振り回されてしまう危険もあります。特に、認知症(痴呆症)の人による徘徊や混乱などが頻発すると、精神的にも肉体的にも家族は限界に追い込まれがちとなります。
そんなとき、ごく身近にあって、その時々で発生するニーズに応えてくれるサービス機関があれば、家族の疲労を最小限にカバーしながら「住み慣れた家や地域での生活」を実現していくことが可能になります。それを叶えるのが「小規模多機能型居宅介護」です。
このサービスの場合、様々なニーズが随時発生するため、一つ一つのサービス内容に応じて利用料を設定することは困難です。そこで、「1カ月契約でいくら」という包括払いにする可能性が高いと思われます。
その他、サービスの質向上など
介護保険がスタートしてから、実に多くのサービス事業者が参入してきました。事業者が増えるということは、利用者の選択を広げる一方で、悪質な事業者が参入するというリスクも高まることになります。
そこで今回の改正では、事業者に対して、介護サービスの内容や運営状況についての情報公開を義務づけることにしています。具体的には、職員体制や設備の状況、サービス提供記録の管理状況、職員に対する研修の実績といった情報を各事業者がまとめ、月1回程度の割合で都道府県知事に提出します。都道府県知事は、その情報を一般に対して広く公開するというものです。
また、事業者指定を6年ごとの更新制とし、何か問題が生じた場合に、都道府県や市町村が事業者に対して勧告や命令ができる権限を強めることとしました。特に、利用者に対しての虐待などが明らかになった場合は、すぐに指定取消しなどの強い処分ができるようになっています。施設における拘束や虐待などが問題になる中、こうしたチェック機能の強化は歓迎すべきでしょう。
ところで、利用者にとってもう一つ気になるのは、介護保険料の支払いについてです。介護保険財政が苦しいと言われる中、保険料の徴収についてはかなり厳しくなりそうです。
例えば、年金からの天引きについては、遺族年金や障害年金も対象とし、生活保護受給者については、本人に代わって生活保護を実施している福祉事務所などが保険料を納付することになります。また、金融機関などで介護保険料を支払っていた人(普通徴収といいます)は、コンビニエンスストアなどでも保険料を納めることができる予定です。
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